それっぽい話

「人が人であるには何が必要だと思う?」
「それは、人が生きていくためということ?」
「人として存在するために、だ」
「そうだね……食べ物?」
「人は食べ物なしでも三日はもつよ」
「水?」
「人には水が流れている。それだけで一日以上持つそうだ」
「……空気?」
「人は常に呼吸をしているのか? なら泳ぐことは出来ないな」
「なら、生きていること?」
「死んでも身体は残る。死骸が腐っても記憶が残る。忘れられても事実だけは残り続ける。……自分の祖先が人ではないと君は考えるのかね?」
「お手上げだ。一体何が必要なんだ?」
「人であると認めることだよ」
「認める?」
「ああ、自認だけでは駄目だ。けれど自分が認めていなくてはそれも駄目だな。自分が人だと信じ、他人にも認められなくてはならない」
「我思う故に我ある、ではないのか?」
「君が君であっても、君が人である保障にならないな」
 一区切り置いた。
「君は僕を人だと思うかね?」
「それは、当然だろう。貴方は人だ」
「ああ、ああ、ああ、駄目だ。それでは全く駄目だ。君は僕を人でないと認めなくてはならない。人であるためには自分ともう一人、それを認める人が要る。逆にね、人でなくなる為にもまた、自分ともう一人が必要なのだよ。だから、僕は自身が人で無いと君に証明しなくてはならない」
 そう言って彼は私の首筋に歯を立てた。